「伝える」から「伝わる」へ
災害大国と呼ばれる日本では、阪神大震災以降、災害予測の科学技術が大きく進歩し、さらにインターネットテクノロジー革命により、災害発生後の防災情報伝達のための技術も大きく発展してきました。しかし、このような状況でありながら、2011年3月11日の東日本大震災発生時、気象庁は「発表した津波警報が住民に効果的に伝わらなかったことが避難の遅れを招いた」との批判を受けました。その後のアンケート調査により、災害情報伝達時、「ことば(言語)」の表現と伝え方に問題があったことが指摘されました。
いかに立派なハイテク技術(ハード面)を使っても、「ことば(言語)」の表現方法、表現内容、伝え方(ソフト面)が悪ければ、どのように有益な情報も正しく伝わらないことが明らかになったのです。これは、それまでの災害情報伝達についての研究が、ハード面に偏り、ソフト面についての研究を軽視してきた結果、起きたことであると考えられます。
このような問題を解決するため、東日本大震災が発生した年の10月に、主に言語学の観点から災害情報伝達において「ことば(言語)」が担う役割を重視し、言語表現による災害情報の効果的な伝え方とその情報の有効利用「防災リテラシー」についての産学共同での研究を行い、その結果をもとに最も効果的な災害情報伝達方法を提案して日本の防災活動に寄与していく目的のもと「防災のことば研究会」は発足されました。
それまでハード面に偏っていた災害情報伝達の研究において、情報発信者の「どう伝達するか」ではなく、「どう解釈されるか」という受信者の視点からの研究に切り替え、情報伝達のソフト面である「ことば(言語)」の問題を言語学の学問領域で再検討と研究を行い、その成果を現場に戻し活用していくべきだと考え、言語学研究者と広告代理店・気象予報事業団体勤務の有志会員10名が集まりました。
発足後、2ヶ月に1回ほどの研究会を実施し、会員個人の研究を国内外の学会で発表して新しい視点からの災害情報伝達の研究の重要性を主張し、また、会員所属の気象予報事業団体の事業として研究成果を活用してきました。